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自分1人では何もできない。だから私はエンジニアのキャリアで「組織づくり」にフォーカスした

「キャリアの中で気づいたんですよ。自分1人だけでは何も実現できないって。だからこそ、開発組織の力を最大化して、みんながより良いパフォーマンスを出せるようにしたい、という思いが強くなりました」

前職はエムスリー株式会社に所属し、現在はSansan株式会社で研究開発部の部長を担う西場正浩さんは、自らの歩みをこう振り返ります。研究員の成果を最大化するためのマネジメントに注力する西場さんは、なぜ“組織づくり”に注力するようになったのでしょうか。

そのキャリアには、組織マネジメントのエッセンスが詰まっていました。

自分の実現したいこととSansanの環境がマッチしていた

――西場さんがマネジメントの役割を担うようになった経緯からお聞かせいただけますか。
私はもともと、数理ファイナンスの研究で博士号を取得した後、メガバンクにクオンツとして入社しました。当時はまだ組織づくりへの関心はほとんどなく、「プレーヤーとして世界トップレベルになってニューヨークやロンドンで働くぞ」と本気で思っていましたし、土日もずっとプレーヤーとしての勉強をしていたように思います。入社2年目にはチームの立ち上げをしました。それが初めてのリーダー経験です。でも、振り返ってみると、あまり私は良いリーダーだったとは思えないですね。

その後は、自分の主軸を機械学習に移してエムスリーに転職しました。機械学習エンジニアとしてアルゴリズムの開発に携わりながら、徐々にマネジメントにも手を広げていくことになりました。

AI・機械学習チームの立ち上げやエンジニア組織の採用マーケティング、プロダクトマネジャー、事業責任者などいろいろなことを経験させてもらって、自分のできることが増えました。それと同時に、自分の至らない部分や経験不足な領域とも数多く直面し、困難なこともありましたね。そうした経験を経て、「中長期的な視点を持ちつつ強い組織を作ることに自分の責任で取り組みたい」と思うようになり、Sansanに転職しました。

――Sansanのどのようなところを魅力に感じたのでしょうか?
Sansanの“変化を受け入れる文化”は非常に魅力的でした。今、Sansanは新しいサービスが続々と立ち上がり、人員もどんどん増えています。組織も文化も成長過程にあり、まだまだ改善と挑戦が必要な環境なので、私が組織づくりに貢献できる機会がたくさんあると思いました。

さらに、現状でも一定の規模の企業のため、私がプレーヤー業務を兼任する必要はなく、組織マネジメントに専念できます。マネジメントによるレバレッジも効きます。これらが私の今やりたいことと強くマッチしていました。

――Sansanでのマネジメント業務のことも教えてください。
私がマネジメントする研究開発部は、機械学習やデータサイエンスなどの技術を活用し、ビジネスやサービスをドライブしていく組織です。研究とサービス開発の両方を担っています。いわゆる研究員だけでなく、ソフトウェアエンジニアも多数在籍しており、メンバー同士が協力し合って開発を行っています。

私がSansanで与えられている明確な役割は、研究開発部の成果を今よりも大きくすることです。そして、私自身が打ち立てている目標として、研究やサービス開発における成果を10倍にすることを目指しています。もちろん、この目標を実現するうえで、何を成果とするか、成果をどうやって達成するかも同時に考えていく必要があります。

また、これは私が勝手に考えていることですが、研究開発部だけでなく会社全体に大きな変化をもたらしたいと思っています。研究開発部は特定の部署やサービスに限らず、全社の業務に幅広く携わることができます。新規サービスの立ち上げや既存サービスのグロース、営業や人事など関われる範囲は広い。だからこそ、研究開発部が複数の組織に対して横断的に価値を提供し、Sansanに大きな変化を生み出したいと考えています。

組織の状態がアウトプットや成果に直結する

――組織づくりはIT企業において重要なテーマであり、その難易度はとても高い印象があります。どのような点に難しさがあると考えられますか?
おそらく、組織づくりの難易度の高さの要因の一つは、多種多様なスキルやバックグラウンドの人たちが協力しなければ実現できないことにあります。例えば、研究開発部には研究員とソフトウェアエンジニア、マネジャーである私が所属しています。つまり、部署に所属している人だけでも3種類の人々がいます。

さらに、部に所属している人だけで組織づくりをするわけではありません。採用や人事評価、研修のために人事にも協力してもらいます。外部への情報発信をする際にはブランディングやデザインを専門とする人たちの協力も不可欠です。

また、ビジネスに貢献するためにはプロダクトマネジャーやCS、営業、他の組織に所属するエンジニアとも協力し合います。つまり、組織づくりはその組織だけで完結する話ではないため、そうした点が難易度の高さにつながっているのかもしれません。

――となると、組織づくりにおいては、自部署だけではなくすべてのステークホルダーが活躍できるような環境の構築が必要になりそうですね。
そう思います。特に大切なのが、専門家がうまくワークする環境を作ることです。会社にはエンジニアや営業、人事といった専門領域に精通した人がたくさんいます。スペシャリストたちは素晴らしい能力を持っているので、その能力を適切に発揮できる環境を整備すれば、大きなアウトプットや良い結果に結びつくはずです。

――西場さんがそう強く思うようになった転機はありましたか?
前職でプロダクトマネジャーやチームの立ち上げ、事業責任者を経験したことが大きいです。プロダクトマネジャーは要件の定義や課題の発見、サービス品質の向上などを担いますが、自分で開発はしません。

つまり、エンジニアやデザイナーなどに活躍してもらわなければ良いアウトプットができない。その時に「ああ、自分は1人では何もできないな」と思いました。例えば、AI・機械学習チームの立ち上げも、データエンジニアの笹川裕人さんがいなければ絶対にうまくいかなかったです。

また人事の友永真弓さんとも密に連携して、一緒に組織づくりを行いました。事業責任者のときも同じです。私が方向性を示した後、実際にプロジェクトを動かしてくれるのは他のメンバーたちでした。現在、Sansanでも新しいことにチャレンジしていますが、周りの協力があるからこそ、新しいことができていると自覚していますし、一緒に働いている人たちに感謝しています。

情報発信することで、周囲を巻き込んでいく

――西場さんが周囲の人たちの協力を得るために工夫していることはありますか?
自分の考えや目指す方向性を常に言語化して、社内外のさまざまな人に伝えるようにしています。ミーティングなどで発言するだけではなく、積極的に文章にもまとめて社内Slackなどで情報発信しています。

マネジメントをする人が、自分の考えや組織が向かうべき方向性を言葉で伝えるのは重要です。やりたいことを適切に言語化し発信するからこそ、それを見た誰かが「面白そうだからやってみよう」とか「この役割ならば自分の持ち味を発揮できそう」と考え、自発的に動いてくれます。

さらに、情報発信においては適切なストーリーテリングも必要になります。自分たちの取り組んでいる仕事はどのような意義があるのか、取り組んだ先にどんな未来が待っているのかなどを伝える。自分たちがやっている仕事の意義を理解できると、誰しも大きくモチベーションが向上すると思います。

以前、Sansanの研究開発部でプロジェクト管理ツールが統一されていないという課題がありました。私はメンバーに向けて「(○○という理由で)統一したいね」という情報発信をしましたが、それを受けて神林祐一さんがツールの検討をしてくれました。

さらに、私は現在(取材時点)OKRのブラッシュアップをしていますが、それもメンバーの吉村皐亮さんや前嶋直樹さんが主体となって動いてくれている。私は「協力をお願いします」とみんなに伝えただけで、実際に手を動かしているわけではないです。

西場さんがフレックスタイム制度の運用について協力を仰いだ際のSlack投稿。

自分ではほぼ手を動かしていなくて、誰かがプロジェクトを動かしてくれているんです。だからこそ、協力してもらうからにはマネジャーとしてメンバー全員に面白い仕事を用意しなければと考えています。もしかしたら「西場はいつも言ってるだけじゃん!」と思われているかもしれないですね。

マネジャーは誰もが同じように悩んでいる

――ここからは、西場さんから読者に向けたアドバイスを伺います。将来的に組織づくりやマネジメントに携わりたいと望むエンジニアが、今のうちにやっておくべきことはありますか?
私自身の経験を踏まえてお話しすると、プレーヤーの時に、着実に技術を伸ばしたり、新しい技術を獲得したりする習慣を身につけるのは大事です。マネジメント職も専門職ですから、経験を積めばどうにかなる世界ではなく、体系的な知識を習得することが必要になります。今のうちから特定領域を突き詰めて勉強する習慣を身につけておけば、マネジメント職に就いてからも成長しやすいと思います。

もう一つは、例え現在リーダーやマネジャーなどのポジションではなくても、チャンスがあるならばマネジメントやリーダーシップの要素が求められる業務に挑戦するのがおすすめです。チームの中で自発的にプロジェクトの舵取りをしたり、マネジャーの意図を汲み取ってサポートしたりと、実はエンジニアの立場でできることはたくさんあります。

もし、何に取り組めば良いのかわからないときは、上司に直接、サポートして欲しいことや関わり方を聞いてみてください。そうした経験が、将来的にリーダーやマネジャーといったポジションに就いた際に役立つと思います。

――では、現職でマネジメント職に就いており、組織づくりで悩んでいる方に伝えたいことはありますか?
前提として、私もずっと悩んでいます。全てがうまくいっているわけではありません。だからこそ、みんな同じように悩んでいることを知って欲しいです。そして、ぜひ他の人たちと相談する場を設けてください。

良いアイデアが浮かんだり、的確なアドバイスをもらえたり、相談することのメリットは大きいです。社内のメンバーや周りの人に話すのはもちろん、イベントの場で話す、外部の人に相談するなど方法はいろいろあるので、1人で抱え込まず、ぜひ他の人と気楽に話してみるのが良いと思います。

「イノベーティブな組織を実現するためにSansanのサービスが不可欠」な状態を目指す

――これからSansanをどのような組織にしていきたいですか?
今後、「イノベーティブな組織を実現するためにSansanのサービスが不可欠な存在」という状態にしていきたいと考えています。そのために、企業のDX化を推進して、革新的なチャレンジをサポートできるようなサービスを提供していきたいですね。

これを実現するには、まず自分たちが今以上にイノベーティブになる必要があると思っています。そう考えるとSansanにおいて研究開発部は非常に重要な組織の一つです。イノベーションはデータの活用から生まれるケースも多いですから。

そして、新しい可能性を生み出すには試行錯誤の数を増やす必要があります。全社横断のデータ基盤を整備し、アルゴリズムの改善サイクルを加速させるためのMLOpsに取り組み、有意義な試行錯誤を増やして徹底したデータ分析ができるようにしていきたいです。

取材・編集:中薗昴