Findy Engineer Lab

エンジニアの"ちょい先"を考えるメディア

エンジニアが技術コミュニティに参画する意義とは何か? 日本MySQLユーザ会の副代表2名が語る

プログラミング言語やライブラリ、フレームワーク、ミドルウェアなど、特定の技術に興味・関心のある人々が集い、情報交換をする――。技術コミュニティの魅力は、活動を通じてエンジニアとしてのスキルアップや仲間づくりができることにあります。

さまざまな理由で活動をやめるコミュニティも少なくないなか、20年以上も運営を続けているのが日本MySQLユーザ会です。「日本でのMySQLの普及を図る」「ユーザ間のコミュニケーションを図る」「MySQLの日本語化の検証/開発を行なう」という3つの目的に沿って運営されるこの会は、2000年の設立から現在まで、MySQLに関する情報交換やエンジニア同士の交流の場を提供してきました。

今回は日本MySQLユーザ会の副代表を務める坂井恵さん@sakaik(写真左)とyoku0825さん*@yoku0825(写真右)に、会に参画した経緯や印象に残る出来事、エンジニアが技術コミュニティで活動する意義などを伺いました。

*…本名は田中翼さんですが、エンジニアとして活動される際にyoku0825という名称を用いていること、そしてその名称の方がIT業界内で浸透していることから、記事内ではあえてyoku0825さん(または略称のyokuさん)の表記を使用しております。

日本MySQLユーザ会の副代表になった経緯

――お2人が日本MySQLユーザ会の運営に携わるようになった経緯をご説明ください。

坂井:私が日本MySQLユーザ会の運営に加わったのは2003年でした。当時の私は仕事でOracle Database関連のプロジェクトに携わっていたのですが、Oracle Databaseはライセンス費用が高額であるため、プロジェクト以外の時間に自分でサーバーを立ち上げて各種の機能を試すのが難しい状態でした。

そんな折に、オープンソースのリレーショナルデータベースがあることを知り、試しに使ってみようと思いました。PostgreSQLとMySQLを検討しましたが、当時のPostgreSQLはWindowsのコンピューターでは動かなかったため、MySQLを選びました。

MySQLに詳しくなろうとWeb上で情報を調べていたところ、日本MySQLユーザ会の存在を知りました。しかし、日本MySQLユーザ会の公式サイトを見ても、MySQLに関連した情報があまり掲載されていなくて。そこで、もともと知り合いだった堤井泰志さん(日本MySQLユーザ会の副代表)に、「もっとMySQLの情報を載せてほしい」と要望したんです。

すると、堤井さんが「(情報を得るための)いい方法がある」と言い「坂井さんが日本MySQLユーザ会の運営をやればいい」と続けたんです。嘘のような本当の話ですが、これを機に運営に携わるようになり、その後に副代表という肩書きになりました(笑)。

当時に開催された勉強会で登壇する坂井さん。

――最初は成り行きで決まったのですね(笑)。しかし、そこから20年近くも日本MySQLユーザ会の運営に携わっているわけですから、何がキャリアの転機になるかわかりませんね。yokuさんはいかがですか?

yoku:私が日本MySQLユーザ会に参加したのは2011年です。MySQLに興味を持ち始めていた当時の私は、日本MySQLユーザ会の会員になり、メーリングリストに加わって各種の情報を得るようになっていました。そしてMySQL関連のコミュニティ活動にも注力し、2014年にはOracle ACEに認定されました。

その後、あるとき坂井さんから声をかけていただいたんですよ。「そろそろ、日本MySQLユーザ会の運営スタッフをやりませんか?」と言ってくれました。ですがその頃は、私のような未熟者がそんな肩書きをいただくのは申し訳ないと思い、辞退させていただきました。

――そこからどのような経緯で副代表になられたのでしょうか?

yoku:Oracle ACEの称号を維持し続けるには、さまざまなコミュニティ活動を続けて、アクティビティポイントを年間あたり一定の点数以上獲得する必要があります。その点数を下回れば認定が取り消しになり、Oracle ACEではなくなってしまうんです。

にもかかわらず、Oracle ACE認定後に仕事が非常に忙しくなり、登壇などの活動があまりできなくなった時期がありました。Oracle ACEの維持は難しいかなと思っていたところ、技術コミュニティの運営者になれば大量のポイントが加算されることを思い出しました。「ひょっとしたら、日本MySQLユーザ会の運営者になればOracle ACEを維持できるかもしれない」と考え、坂井さんに事情を伝えて副代表にしてもらえるよう相談しました。

坂井:「待っていました!」という感じでしたね。

yoku:本当にありがとうございました。

坂井:yokuさんのコミュニティへの貢献度は相当に高く、事実上日本MySQLユーザ会の運営者と言っていいほどの活動をされていました。だから何も問題はありませんでしたよ。むしろ願ったり叶ったりでしたし、yokuさんにとっても副代表という肩書きがプラスになると思いましたから。

感慨深かった15周年イベント

――日本MySQLユーザ会の歴史のなかで、特に印象に残っているイベントはありますか?

坂井:2015年に開催した15周年イベントですかね。

yoku:私も同じことを言おうと思っていました(笑)。

坂井:そうですよね。15周年イベントの会場を貸してくれたのは株式会社コロプラでした。創業者の馬場功淳さん(現 会長・チーフクリエイター)@gmcoloplと知り合いだったこともあり、開催に関する協力のお願いを相談したところ、快くOKのお返事をいただきました。会場の設営から当日のイベント運営まで、コロプラはさまざまな支援をしてくれて。感謝してもしきれないくらいです。そのおかげもあり、かなり大々的にイベントを開催できました。

イベント時の様子。当時の盛り上がりは https://togetter.com/li/895651 にまとめられている。撮影:加山恵美 。

なかでも嬉しかったのが、馬場さんが15周年イベントのためにメッセージを寄せてくれたことです。馬場さんはイベントに参加できなかったものの、コロプラ社員がメッセージを読み上げてくれました。「コロプラは各種サービスでMySQLを活用している。だからこそ、MySQLのコミュニティに対して全力で恩返しをしたい」という旨を発表してくださって。手紙が読み上げられたとき、泣きましたね。

yoku:15周年イベントのなかで、MySQLコミュニティの運営者であるチェコ在住のLenka Kasparovaさんからビデオレターが届いたのを覚えていますか?

坂井:(日本オラクル株式会社の)梶山隆輔さんが紹介してくださった方ですか?

yoku:はい。Lenkaさんは各国のMySQLコミュニティとの窓口の役割を担っていた人です。その方が、日本MySQLユーザ会の15周年を祝うビデオレターを贈ってくださいました。日本MySQLユーザ会が海外のMySQLコミュニティとも良好な関係を築けていることを感じられて、感慨深いものがありましたね。

技術コミュニティから、たくさんのことを得られた

――エンジニアが技術コミュニティに参画したり、運営に携わったりする意義について、日本MySQLユーザ会に関連したお話をお聞かせください。

yoku:自分の場合、日本MySQLユーザ会がさまざまな活動の拠り所になりました。長きにわたり運営が続けられてきたからこそ、IT界隈に日本MySQLユーザ会を知っている人は多いです。だからこそ「日本MySQLユーザ会の運営に携わっている者です」と自己紹介すると、たくさんの人たちが「ああ、あの有名な」とすぐに理解してくれます。日本MySQLユーザ会は自分にとって、アイデンティティを証明してくれる存在です。

私はこの会の活動を通じて、たくさんのチャンスをもらいました。これからはそれ以上に、日本MySQLユーザ会やその関係者たちに恩返ししていきたいです。それから坂井さんにも本当に感謝していますよ。坂井さんが、たくさんの人たちと私をつなげてくれた。そういった人と人との結びつきが生まれるのが良いコミュニティのあり方ですし、私は今後もこのコミュニティを絶対に絶やしたくないと思っています。

坂井:読者の方々には、自分が何かしら興味を持っている技術領域があるならば、そのコミュニティにぜひ参加してみることをおすすめしたいです。ある程度そのコミュニティで居場所を作り、それを足掛かりにして別のコミュニティともつながってほしい。その連鎖で、誰かと誰かの新たな縁を生み出していってほしいです。

コミュニティへの参加にはいくつもの利点があります。まず、真の意味で価値のある情報を得られます。どれほど書籍やWeb記事を読んでも、動画を視聴しても、自分が知りたいことはそこにはないんですよ。業務改善に結びつくような本当に価値のあるノウハウや知見は、他の人々との対話からしか得られないと私は思っています。もちろん、教えてもらうばかりではなく、自分も他の人に何かを提供できるように努力する必要がありますから、学習するモチベーションも高まります。

それからコミュニティの運営スタッフになると、肩書きがつくのでエンジニアとしての活動にも利点が多いですよ。仕事などさまざまな場面で自己紹介するときに、自分の活動内容や専門領域を他の人たちから理解してもらいやすいですし、登壇や執筆の依頼も増えます。ぜひ無理のない形で、読者の方々もコミュニティ活動に携わってほしいです。

撮影はyokuさんの勤めるLINE株式会社のオフィスで実施しました。

情報発信することも、コミュニティを盛り上げる原動力になる

――他に、コミュニティ活動において大切にしてほしいことはありますか?

坂井:ぜひ、みなさんにはブログやSNSなどで積極的に情報発信してほしいです。決して、「自分はスキルの高いエンジニアではないから、価値の高い情報を発信できない」と思わないでください。

どんな技術コミュニティもエンジニアのスキルのスタート地点は同じです。特定の技術が登場したばかりの頃は、誰もが初心者です。この段階では飛び抜けてスキルの高いエンジニアが世の中にいないので、さまざまなエンジニアが気負わず情報発信をします。

その後、一部のエンジニアがその技術にどんどん詳しくなり、スキルの高い者同士で非常に高度な情報交換をします。そして、上級者に向けた情報発信をするようになります。一方、技術コミュニティ内のそれ以外のエンジニアたちは、自分の情報を発信することに気後れしてしまい、アウトプットの量が減ってしまうんです。

今や、MySQLの世界はそうなってしまっていると思うんですよ。私はこれをとても危惧しています。この状況が続くと、MySQLに関するライトな情報発信がどんどん少なくなり、結果的にコミュニティが衰退してしまいます。

だからこそ、もっと気軽に多くの方々が情報を発信して欲しいです。「○○をインストールしました」とか「この要件を実現するためのクエリは、こう書けばいいとわかりました」くらいの、本当にライトな内容で構いません。何か新しいことを覚えると、嬉しいじゃないですか。その嬉しさをぜひ発信してほしいです。世の中にいる他の誰かが、必ずその情報を読んでくれます。また、発信するというプロセスを経ることで、自分の頭の中で情報を整理できます。

それから、MySQLのコミュニティだけではなくて、他の成長過程にあるコミュニティに参加するのも面白いはずです。混沌としているかもしれないけれど、将来的に盛り上がりそうなコミュニティを見つけて参加してみる。すると、コミュニティの成熟とともに自分のキャリアにもプラスの影響があるかもしれません。私やyokuさんがそうだったように。

MySQLのことを好きな人たちの拠り所でありたい

――今後、日本MySQLユーザ会をどのように運営していきたいですか?

yoku:これまで、ゆるく運営してきた会ですから、これからもゆるく運営し続けたいと考えています。コミュニティのみんなで盛り上がったり、日本MySQLユーザ会に所属している人間が外部にプレゼンスを発揮したりしながら、今後も長く継続したいです。その結果として、MySQLに興味を持った人が新たに参画してくれたらいいなと思います。

日本MySQLユーザ会の良いところは、安心してコミュニティの仲間たちとMySQLの話ができることです。当たり前ですが、MySQLの話をして嫌がる人はいない。自分の好きな話題で、同じように盛り上がれる人たちが参画しているからこそ、信頼関係が生まれるんですよね。きっと、“同士”と言えるようなエンジニアと出会えるので、興味のある方は遠慮せず片足だけでも突っ込んでみてください。そして他の仲間たちとも交流してもらえると、MySQLの世界をより深く楽しめると思います。

――どのような人に参画してほしいですか?

yoku:MySQLのことが好きであれば、他に何もいらないと思いますよ。その気持ちさえあれば、スキルは後からいくらでもついてくるじゃないですか。

坂井:yokuさん、良いこと言うなあ。一番大切なセリフを言われてしまいました(笑)。

――坂井さんからもコメントをお願いします。

坂井:これからも日本MySQLユーザ会は、MySQLについての勉強を始めようと思っている人や、より知識を深めたいと思っている人たちがファーストコンタクトできる場所であり続けたいと思っています。

参画してほしい人としては、もちろんyokuさんが言われたようにMySQLを好きなこと。それから、イベントの企画や運営をお手伝いしてくれる人に入ってもらえると、本当に助かります。今、ほとんどのイベントを私が中心になって運営しており、マンパワーが足りていないんです。

私がかつて「もっとMySQLの情報を載せてほしい」と要望したことをきっかけに運営に参加したように、「もっとMySQLのイベントを開催してほしい」と要望を出してくれる人がほしい。そんな人が現れたら、今度は私がその人に「あなたが運営をやればいい」と伝えようかな(笑)。

――そうなったら面白いですね(笑)。お2人とも、とても興味深い話をありがとうございました!

取材・執筆:中薗昴
撮影:漆原未代
取材協力:LINE株式会社