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英語学習は「話す」ことが大切!グローバル組織で働くエンジニアに聞く、学習方法と働き方

日本人の英語力が低いと問題視される一方で、組織をグローバル化する国内企業が増加。英語の学習方法に悩む方も少なくないのではないでしょうか。

そこでファインディは「メルカリ・マネーフォワードのグローバルなエンジニア組織で働く中でやってきたこと」と題したイベントを開催。

英語環境で開発を進めているマネーフォワードの西村さん、メルカリの宮崎さんにお話をお伺いしました。 お二人が英語を身につける上で大切だと感じたのは「話すこと」なのだそう。本稿では、イベント中に語られた具体的な学習方法や英語環境で働く上で苦労したエピソード、その解決方法についてまとめています。

■パネリスト
西村 由佳里さん
株式会社マネーフォワード / Backend Engineer
奈良県出身。小学生のころ自作PCにハマりエンジニアの道へ。大手化学メーカー情シス子会社でインフラエンジニアとしての経験を積んだのち、マネーフォーワードにコーポレートエンジニアとしてジョイン。 同時期に英語が将来に必要なスキルと感じ始め、業務の傍ら英語の勉強を始める。 2021年に社内で先行して公用語を英語化したCTO室グローバル部に異動。国際色豊かなメンバーと共に、Goのバックエンドエンジニアとして既存プロダクトのマイクロサービス化に取り組む。 海外駐在経験なし、海外留学経験なし、英語圏の海外旅行経験なし。

宮崎 優太郎さん / @vwxyutarooo
株式会社メルカリ/ Engineering Manager
独学でソフトウェア開発を学んだ後フリーランスで受託開発を開始。その後スタートアップ (株式会社 Nagisa) を経てメルカリにフロントエンドエンジニアとして入社。TechLead を経て現在は Web Architect チームの Engineering Manager としてインターナショナルチームを率いる。

グローバル化に伴い、コミュニケーションに苦戦した過去

──仕事をする上で、英語を話す頻度を教えてください。

宮崎さん:メルカリは2018年あたりから海外人材が増え始めました。1年半~2年ほどかけてグローバル化を進めて、現在は5割を超える海外人材が活躍しています。口頭・Slackのどちらも英語でコミュニケーションしていて、仕事中に日本語を話すことは稀ですね。

西村さん:マネーフォワードでは2021年の秋、3年後にエンジニア組織英語化を目指すことを決定しました。その際、先行して公用語を英語化したグローバルチームを東京に立ち上げることとなり、私はその初期メンバーとしてチームに参画しました。チーム内のコミュニケーションは口頭・Slack共にほとんど英語で行っています。

──英語で開発を続けるなかで、苦労したことはありますか?

宮崎さん:一番に思い浮かぶのは、文化の違いです。日本語中心の組織では暗黙の了解で開発を進めることが多かったため、ドキュメントも並行して作成しないといけないのは大変でしたね。

また、組織のなかで日本語と英語それぞれのモノリンガルが半々になった際、コミュニケーションの分断が起きてしまった時期もありました。その際は両者の交流を促すのに、非常に苦労した記憶があります。日本語と英語ではコンテキストレベルが違っていて、日本はハイコンテクスト文化で主語がなくとも会話が成立しますよね。「言わなくてもわかる」暗黙の了解のようなやり取りも多いでしょう。一方で、英語圏はローコンテクスト文化であり「〇〇をやっておいてくれると嬉しい」などの曖昧な指示は通じません。

そういった文化の違いから、最初はミスコミュニケーションが多発していました。グローバル化を進める中で、私がテックリードを勤めていたチームが崩壊してしまったこともありますね。

──グローバルな組織にするためには、苦労も多いのですね。どのように解決されたのですか?

宮崎さん:覚悟を持って挑まないと、心が折れてしまう人も出てくると思います。

私の場合、前提条件としてグローバル化を実現するには時間がかかると、上司に説明することを徹底しました。通常業務と並行して英語や海外文化も学習しないといけないとなると、当然仕事のスピードは落ちてしまいますよね。それをメンバー自身も、評価する側も理解していないといけないと思うのです。

グローバル化を進めるとなった際は、まずは会社側に「一定期間、業務のスピードは落ちてしまう」というコンセンサスを得ておくのがポイントです。

コミュニケーションについては、分断を埋めるために私が間に入って翻訳することもありました。徐々に私が間に入るケースを減らし、両者のコミュニケーションを促すようにしていましたね。

──西村さんは苦労されたことはありますか?

西村さん:マネーフォワードで公用語チームを立ち上げた当初、日英のどちらも話せる人は、私を含め限られた少数しかいませんでした。初期メンバーがやったこととしては、英語のドキュメント化ですね。英語話者の方向けに、ドキュメントを翻訳する作業は大変でした。

ただ、幸いだったのは、弊社は以前からベトナムの現地メンバーの採用に注力していたことです。日本語がわかるベトナムのエンジニアは、多くがトリリンガルで英語も話せます。彼らが仲介をしてくださったおかげで、チームの立ち上げは比較的スムーズでしたね。

D&Iの知識は必須。“文化の違い”を意識したコミュニケーションを心がける

──先ほど、英語でのコミュニケーションは苦労していたとお話しされていましたね。日本語話者と英語話者間で、どうしてもコミュニケーションが取れない場合の対処法などがあれば教えていただきたいです。

宮崎さん:どうしても伝わらない時は、通訳をお願いするのもおすすめですね。チームによって異なりますが、メルカリは1年〜半年といった期間で通訳を呼べる仕組みがあります。

「通訳は要らないけれども細かいコンテキストが伝わらない」といった場合は、時にはドキュメントやホワイトボードを使って話す。時間をかけてでも自分の力でコミュニケーションを取るのが、遠回りなようで一番の近道だろうと個人的には思いますね。

西村さん:マネーフォワードには、英語公用語化をサポートするチームがあります。必要であれば、そのチームにお願いして通訳してもらうこともできますね。

ミーティングでどうしても言葉が出てこなくなった時には、Slackに切り替えて詳細な情報や根拠をもとにテキストベースでやり取りすることもありました。

現時点でマネーフォワードにいる英語話者の方々は、「英語の公用語化が進行中」であることを了承した上で入社してくださっています。そのため、コミュニケーションをSlackに切り替える際も、快く応じてくださいますね。

──お二人が英語でコミュニケーションを取る際に、気をつけている点はありますか?

宮崎さん:言いづらいことほど言うように気をつけています。特に意見の対立に対する対処やマネージャとしてネガティブなフィードバックやセンシティブな情報を正しく伝えることができず苦戦しました。 ストレートに伝えることもあれば、遠まわしな表現をする時もありますよ。国によって文化は違いますし、相手の出身国の文化についても考慮した上で、人に合わせて表現を変えるようにしています。

──人によって異なりますが「ストレートに伝えた方がいい」という傾向が強い国もありますし、そういった文化の違いは学んでおいた方が良さそうですね。

宮崎さん:ええ。また、最も気をつけたいのは、「年齢」「彼氏/彼女」「政治的思想」などセンシティブな話題です。更にボキャブラリーで気をつけたいのは「ブラックリスト」や「ブラックマーケット」など、「黒=ネガティブなもの」を意味するワードは不適切だという認識が英語圏では広がっています。そういった海外のムーブメントやトピックにアンテナを張っておくのも重要ですね。

──西村さんはいかがですか?

西村さん:宮崎さんが冒頭におっしゃっていた、ローコンテキスト/ハイコンテキストの違いは、常に意識するようにしています。具体的には「これはわかるでしょ」といったものを排除して、細かく明確に指示するようにしたり、質問をしやすい雰囲気を作ったりすることに注力していますね。

私は女性エンジニアとして働くなかで、“男性同士の暗黙の了解”がわからず、苦労したこともあります。自分自身もそういった経験をしているからこそ、「どういった時に困るのか?」「困った時にどうしてもらいたかったか?」と常に自問自答しながら、フォロー体制を構築してきました。

宮崎さん:西村さんのお話を聞いていて、ビジネスパーソンはD&Iに関する知識が必須だなと改めて思いました。本でカルチャーごとのコミュニケーションの違いを学ぶなら『異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』がおすすめですよ。また、Googleが公開している英語スタイルガイドも参考になります。

──アンコンシャス・バイアスワークショップを実施する企業も増えてきましたよね。

宮崎さん:無意識の偏見は誰にでもありものですよね。日本は特にD&Iが遅れている印象があり、そういった部分の学習は、積極的にした方がいいのではないかと思います。

西村さん:同感です。D&Iについて学ぶなら『WORK DESIGN(ワークデザイン)行動経済学でジェンダー格差を克服する』もおすすめです。タイトルの通りメインの内容はジェンダー格差の事例なんですが、本の中でも「この問題は人種や国籍の格差問題に取り組む際の参考にもなる」と述べられていまして、実際その通りだと思います。

正しい文法じゃなくてもいい。英語学習で1番重要なのは「話す」こと

──英語学習をする上で、やってみてよかった方法があればお教えいただけますか。

西村さん:アニメやゲームなど、自分が好きなコンテンツを通して英語をインプットするのはおすすめですね。私の場合、英語を学び始めた当初は社内で英語環境が少なかったため、アウトプットの場を確保するのが大変でした。そのため、海外メンバーとSlackでやり取りしたり、英語を使える仕事に立候補したりと、積極的にアウトプットの場を確保するようにしていましたね。

また、一番英語力の上達に役立ったと感じるのは、スピーキングやリスニングの練習です。読む力が一定身についている状態でスピーキングとリスニングを練習したら、リーディングやライティングの能力も一気に伸びたんです。TOEICでいうと、600点台をウロウロしていたのが、800点近いところまでスコアを伸ばすことができました。4技能(聞く、話す、読む、書く)は、相互に関係しているのでしょうね。

逆にやらなくてもよかったなと思っているのは「正確な英語の表現」「文法」にこだわること。プログラムで例えると、英語の文法はコーディング規約のようなものだと思っています。守らなくても動くけれど、守っていた方が理解はしやすい。

──確かに。「悩むよりもまずは話してみることが大切」とよく聞きますしね。宮崎さんはいかがですか?

宮崎さん:これは自慢なのですが、私は英語が話せるとはいえ、学歴は低いんですよ。学生時代に勉強を頑張っていた訳ではありません。

私がどのようにして英語を学習したのかというと、“幼児期のやり直し”です。まず、スマートフォンなどのデバイスは英語表示にします。その後に『赤ずきんちゃん』や『はらぺこあおむし』など、童話を音読。ある程度読めるようになってからは、子ども向けのコメディードラマなどをみて、役者の発音を真似しながら英語字幕を音読していました。

自分のレベルが上がったら、コンテンツの難易度も上げるというスタイルで学習を続けていって、気づいた頃には喋れるようになっていましたね。

童話などの本を音読するときのコツは、読めない単語があってもその場では調べないこと。まずはノリで読んでみるんです。読み終わってから答え合わせをすればいい。それを繰り返しているうちに、だんだんと発音を予想する力がついたように思います。また、音読することで、スピーキングの能力開発にも繋がりました。

4技能の中で一番簡単なのは話すことだと思うのです。難易度の低いものから挑戦すると、心が折れることなく続けられるのではないでしょうか。

──なるほど。単語学習などはしなかったのですか?

宮崎さん:単語の暗記や文法の学習は一切していませんね。音読していると単語のボキャブラリーは自然と増えていきますから。

先ほど自分のレベルが上がったらコンテンツの難易度を上げるとお話ししましたよね。自分のレベルをどのように把握していたのかというと「ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)」を参考にしていました。これは言語のレベルを抽象化し、A1~C2の6段階でレベル分けされているものです。

例えば、A1は自己紹介ができて、簡単な質問などであれば質疑応答ができるレベル。A2は「昨日はどこに行ったの?」などの単純な会話を成立させられるレベルです。A1時点で英会話を習い出すと時間対効果が悪いかもしれないですし、音読をした方がいいでしょう。流暢な会話ができるB2にまでレベルが上がれば、音読は意味がないと思うので、実践コミュニケーションを増やした方がいいと思います。

──一定のレベルに到達してからは、実践コミュニケーションで鍛えていくのが効果的だと。

西村さん:同感です。付け加えるとするならば、スピーキングの実践に入る前に英語の音声変化も勉強することをオススメします。たとえば、「Did(ディット) you(ユー)」の音が繋がると「ディッジュー」になる、といったものですね。リアルな英会話では、単語と単語が並ぶと一定の法則で発音が変化するんです。 これはリスニングやスピーキングでつまづきやすいポイントだと思うのですが、少なくとも私が学生の頃は学校の授業で音声変化について教えてもらえませんでした。。私は音声変化を学んだことで、ポッドキャストやアニメ、ドラマなどのコンテンツを通した学習がしやすくなりました。海外Youtuberのコンテンツなどをみると、リアルな発音の参考になると思います。

──そう考えると、4技術の中で鍛えた方がいい重要度の高いスキルはリスニングなのでしょうか?

宮崎さん:個人的にはスピーキングが1番重要だと思います。2番目はライティングだろうなと。

西村さん:私も鍛えた方がいいのはスピーキングだと思います。

ただ、あえて少し違う意見を上げるとすると、スピーキングだけでなくリスニングの価値も相対的に上がっていくような気もしています。

機械翻訳の精度は日々向上していて、ライティングとリーディングは、ツールでなんとかなることも多い。しかし、リスニングとスピーキングは精度以外の問題もあるので、ライティングとリーディングと同じように頼れる技術になれるかというと、難しい分野だと思うんです。

たとえば、リーディングであれば多くの場合テキストデータがあるため、翻訳機は「話者が元々何を書いたのか」を正確に読み取れます。ですがリスニングだとノイズの問題があるので、「話者が元々何を話したのか」を正確に聞き取ることが難しく、結果的に翻訳精度の限界を感じます。

またスピーキングについても、文法の問題で話者がある程度まとまった文章を話してからでないと、別の言語に翻訳できないことが多い。すると、どれだけ翻訳スピードを上げても、リアルタイムでの会話速度は半分くらいに落ちちゃうんですね。会議にかかる時間が2倍になっちゃう。スピードが求められるビジネスの世界ではこれが許容できず、直接英語で話すよう求められる場面も多くなっていくのではないでしょうか。 「英語を学ぶ」と一言で言っても、技術の発展により、鍛えた方がいい英語スキルの内訳は変わっていくのかもしれませんね。

学習を始めるのに年齢は関係ない。英語学習で自分の世界を広げよう

──参加者からの質問に「英語ができれば、技術力が足りなくても採用される可能性は上がりますか?技術力の方が優先されるでしょうか?」といったものがありますね。

宮崎さん:会社の規模によって回答が異なる可能性もあります。基本的にはどちらも妥協しないですが、メルカリの場合は技術に重きをおいていると思います。技術力はエンジニアの根幹となるものですから。

──英語が話せたとしても、開発ができなければエンジニアとしての役目は果たせないですものね。

西村さん:そうですね。自分が採用担当だと仮定して考えても「英語は話せるが技術力は不足している」「英語は話せないが技術力はある」だと、後者の方が採用しやすいかもしれません。

──英語はあくまでもスキルの一つだということですね。最後に英語環境で働きたいと考えている方に向けて、メッセージをいただけますか。

宮崎さん:勉強が得意か不得意かに関係なく、やり方次第で誰でも英語は話せるようになると思います。英語に苦手意識があるのか、自信を持てずにいる人もいると思うのですが、とにかく話してみるのがおすすめです。周囲の人に聞いてもらって、英語が楽しくなってきたら、きっと飛躍的に英語力が伸びていくと思います。

英語が話せるようになると自分の世界が広がります。仕事も面白くなりますし、やってみて損になることはないはず。グローバルな環境で働くことが合っているかどうかは経験してみないとわかりませんし、興味があるならぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。

西村さん:私は中高の学生時代、病気が原因で学校に通えない時期もありました。大学は卒業できたものの、学生時代に英語の勉強はまともにできていません。

しかし、30歳手前で学習を始めて、現在では英語が公用語のチームで働くほどに成長できました。

インターネットや技術が発展したおかげで、以前と比べて英語を学習するハードルは下がっていると思います。大人になってからも英語を身につけることはできますし、もし興味があるのであれば、ぜひチャレンジしてみてください。私の経験が、誰かの挑戦を後押しする力になれば幸いです。