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渡米する上での必須スキルとは?アメリカで働くエンジニアが語る日米文化の違い

シリコンバレーを拠点とするMODE, Inc.のCEOを務める上田さんと、Googleで働く竜さん。アメリカで働くために行動して夢を叶えた上田さんとは対照的に、竜さんは転勤をきっかけに渡米。現地での生活を経て、アメリカで働くことに面白さを感じるようになったのだそう。 渡米した経緯が異なるお二人に、アメリカで働く際に必要なスキルをお伺いしてみたところ、共通して「適応力が必要だ」と語ってくださいました。 本稿は、7月29日に開催したファインディ主催のキャリアイベント「あなたはアメリカに行くべきなのか?海外で活躍するエンジニアのスキルとはーグローバルで活躍するエンジニアのキャリア論 vol.5ー」の内容をまとめています。

■パネリスト
上田 学さん/@gakujp
MODE, Inc./ CEO / Co-Founder
早稲田大学大学院卒業後就職し、渡米。2003年からGoogle 2人目の日本人エンジニアとして、Google Mapsの開発に携わる。 その後、当時まだスタートアップだったTwitterに移り、公式アカウント認証機能や非常時の支援機能などのチーム立ち上げ、開発チームのマネジメントを経験。2014年にイーサン・カンとともに、シリコンバレーを拠点とするMODE, Inc.を設立。IoT技術をパッケージ化することで、誰でも簡単に使えるクラウド・プラットフォームを提供。様々な業界に現場データ活用を浸透させ、ビジネスに変革を起こし、一歩進んだ社会の実現を目指す。

竜 盛博さん/@garyu
Google / Senior Software Engineer / Tech Lead
宮城県仙台市出身。宮城県仙台第一高等学校卒業、東北大学工学部情報工学科卒業、東北大学大学院情報科学研究科修了。修士(情報科学)。幼稚園から大学院まで、通った学校全てが半径3kmの円内に収まっている。 日本ヒューレット・パッカード社在籍中に米国駐在。日本帰任後に米国移住を決意、以来転職を繰り返し、Agilent Technologies (旧 Hewlett-Packard Company)、Amazon、Microsoft を含むシリコンバレー・シアトルエリアの会社6社で勤務。現在 Google にて Senior Software Engineer / Tech Lead として働く。 著書「エンジニアとして世界の最前線で働く選択肢」(技術評論社)。

アメリカで挑戦する上で必須のスキルは、適応能力と“ポジティブさ”

──アメリカで働くことになったきっかけをお話いただけますか。

上田さん:私が大学生の頃はインターネットが出てきたばかりで、NetscapeやMicrosoftが盛り上がっている時代でした。IT雑誌を読み漁っていると、アメリカではさまざまなテクノロジー企業が誕生していると書かれていて。それを読んで「将来はアメリカで働きたい」と思うようになりました。

就職活動する際は、アメリカにいけそうな会社に絞って応募していましたね。最終的に運よくアメリカに行く機会を得ました。

竜さん:私の場合は、最初に就職した日本ヒューレット・パッカード社でアメリカに駐在することになったのがきっかけですね。もともとアメリカに行きたいと思っていたわけではなく、配属されたのが海外転勤のある部署だったのです。

アメリカで働くのは非常に楽しい経験でした。その楽しさが忘れられず、一度は帰国したものの、アメリカの本社に移籍。その後はAgilent TechnologiesやAmazon、Microsoftでの勤務を経て、現在のGoogleに転職という流れです。

──お二人はアメリカに行く前から英語を話せたのですか?

竜さん:アメリカに行く前はTOEICで800点を超えるぐらいの英語力でした。頑張れば会話が成り立つレベルで、最初は苦労も多かったですね。

上田さん:私はホームステイの経験があり、日常会話ならできる程度でした。とはいえ、日常会話と仕事での会話は違いますし、大変でしたね。

竜さん:留学やホームステイをしたことのない人が、いきなり現地で英語力を身につけるのは大変だとは思いますが、エンジニアならば他の職種に比べてソフトランディングしやすいと思います。

──海外で働く上で必須のスキルはありますか?

竜さん:できないことではなく、できたことにフォーカスするスキルが重要ですね。できずに悩んでしまうよりも「これができたんだから自分はすごい」と思える人の方が向いていると思います。

上田さん:確かに。「これさえあれば大丈夫」といったスキルはなく、大事なのは環境に適応していく能力ですよね。竜さんがおっしゃるように、何でもポジティブに捉えるスキルは必須だと思います。

──年齢や経験年数によって求められるものが変わることもあるのでしょうか?

上田さん:アメリカでは雇用に関して年齢制限を設けることが禁止されています。そのため、年齢によって求められるものが変わることはないでしょう。ただ、エンジニアの経験年数が長ければ長いほど、求められるスキルの難易度は上がります。

竜さん:コンピュータサイエンスの基礎習得は必須ですが、何より大切なのは行動することです。理解できないことがあっても、まずは試してみて動くところまで持っていく。そういった行動力と柔軟性があれば、アメリカでも通用するのではないでしょうか。

アメリカはインパクト重視? 働く中で感じた文化の違い

──日本とアメリカで働くエンジニアの差はなんだと思いますか?

竜さん:アメリカで働いて驚いたのは、評価する際に「インパクト」を重視していることです。日本ではルールに従っていれば、結果が出せなかったとしても「それでうまくいかなかったのであれば仕方ない」と許される雰囲気がありますよね。アメリカで同じことが起こった場合、「なぜそこで解決策を考えなかったのか?」と問われます。難易度の高さはそれほど関係なく、簡単なものであろうとインパクトが大きいならば評価されます。そのため、トップエンジニアはインパクトのある仕事に挑戦しているイメージです。

──なるほど。トップエンジニアから学んだことがあれば、お話いただきたいです。

上田さん:トップエンジニアと聞いて思い出すのは、私と同じ日にGoogleにジョインしたインド人の新卒エンジニアです。世界には努力しても追いつけないような賢い人がいるのだなと実感しましたね。

一方で、「会社内での存在価値」を見出すことの重要性にも気づきました。「スキル面ではトップエンジニアに敵わないけれど、この人にいてほしい」と思ってもらえなければ、会社にいられなくなるのだと。

それに気づいてからは、自分の得意分野を伸ばすことを意識するようになりました。社内で自分が一番できるであろう領域を見つけて、そこに存在価値をつくるようにしたのです。

竜さん:トップエンジニアの情報処理能力の高さには驚かされますよね。彼らは膨大な情報を即座にインプットし、あっという間に課題を解決していきます。体力も桁違いで、高い能力を活かしつつ長時間働けるため、通常の3~5倍ほどの成果を出して驚くようなスピードで昇進していく人もいます。トップエンジニアになるためには、体力をつけるのも大事なのだと思いました。

また、意外だったのは、トップエンジニアにもウィークポイントがあるということ。彼らの苦手とする領域をカバーするのも、生き残るための方法として有効だと思います。

──働く中で、日本とアメリカの違いを感じることはありますか?

竜さん:自己主張する人の多さは、日本と決定的に違うところかもしれませんね。ミーティングで上司の言ったことを正面から否定するような人も珍しくありません。

とはいえ、みんな言い方には配慮していますよ。私が渡米したばかりの頃は「自己主張をしないといけない」と思い込んでいて。自分の意見を発信しすぎたせいか「うるさい奴だ」という評価を受けてしまったことがあります(苦笑)。

上田さん:特にテックカンパニーでは、「喧嘩してるのか?」と勘違いするほど熱い議論をしている場面をよく見かけますね。実際には喧嘩なんて当然していませんし、仲がいいエンジニア同士ほど、議論をしています。

意見が合わないことと、相手を否定することは決してイコールではありません。意見が合わないからこそ議論をして、相互理解を深めているのだと思います。むしろ、議論をしてもらえない方が辛いです。「議論する価値もない」と判断されているわけですから。

海外企業に挑戦するなら、学生は「留学」社会人は「英語で活動」

──ここからは参加者からの質問にお答えいただきます。まずは「アメリカの会社では、どのように給料が決まっていくのでしょうか?」といった質問です。

上田さん:日本の会社も同じだと思うのですが、ラダーが用意されています。ラダーの幅が広く、スキルの高い人ほど高い報酬が支払われますね。昇格するスピードも人それぞれで、一段飛ばしで上がっていくようなケースもあります。

──「日本と比較して、解雇は頻繁でしょうか?」という質問もきていますね。こちらはいかがですか?

竜さん:日本と比べたら多いかもしれません。解雇には2種類あり、一つは成績不振や違法行為などを理由としたFire。もう一つは、会社の業績不振や不景気を理由として一時的に解雇するレイオフです。日本は法律の関係でレイオフが難しいため、解雇の割合はアメリカの方が多いのではないでしょうか。

とはいえ、アメリカの会社側も簡単に解雇できるわけではありません。「エンプロイメント・アット・ウィル 」という法律があり、従業員と雇用側のどちらも理由がなくとも雇用関係を解消することはできます。しかし、遠慮なしに解雇していたら、ほかの従業員が怖くなって転職してしまいますよね。また、差別に基づいた解雇だと訴えられる可能性もあり、事実であれば企業側が多額の賠償金を支払うこととなります。根拠となるものがなければ、解雇はできないのです。

──続けて「日本からリモートで働くという選択肢はありますか?」といった質問です。

上田さん:あり得ると思います。コロナ禍でリモートワークが非常に増えている印象はありますし、新しい会社だと、オフィスを構えていないところも3割ほどあるようです。

英語でのコミュニケーションが可能で、かつコードが書けるのであれば、アメリカで働くためのルートが増えたと言えるのではないでしょうか。

──「学生の間にやっておくと良いことみたいなことありますでしょうか?」という質問についてはいかがですか?

上田さん:アメリカで働きたいのであれば、こちらの大学に留学するのがいいと思います。アメリカの学校でコンピュータサイエンスを勉強して卒業すれば、ほぼ自動的に現地の会社で働けますよ。

──「アメリカの会社から仕事のオファーを得やすくするにはどうすればいいでしょうか?」という質問にもお答えいただけますか。

竜さん:OSSで貢献するなど、有名エンジニアになれば海外企業からオファーがくると思いますが、かなり特殊な例のように思います。

日本にいるのであれば、外資系の会社に就職するのがおすすめです。ビザの問題もありますし、何の縁もなしにアメリカの会社に就職するのは難しいかもしれませんね。

上田さん:オファーを狙うなら、英語で活動するのは大事だと思います。GitHubのプロジェクトを英語で書くようにするのもいいかもしれません。

日本で活躍すべき人もいる。海外に興味があるなら、ぜひ挑戦してほしい

──今後のキャリアプランや挑戦したいことについて、お話いただけますか

上田さん:5年ほど前に作ったMODEの東京オフィスでは、英語があまり話せなくとも、やる気があれば採用するようにしています。個人差はありますが、1~2年ほどすれば、英語で仕事をする土台ができるのですよ。

グローバルに挑戦するためには、世界の最大公約数である英語を話せるようになることが必須です。MODEを通して、世界で活躍する日本人を増やすことに貢献していきたいですね。

竜さん:直近ではGoogle内の新しいチームで働き始めたばかりですので、そちらに貢献できるよう頑張りたいと思っています。

また、TechLeadのようなポジションを長く務める中で、後輩たちを指導するようなポジションの面白さに気づきました。ゆくゆくは、マネジメントにも挑戦したいと考えています。

プライベートでは『エンジニアとして世界の最前線で働く選択肢』を出版したことで、登壇する機会やキャリアの相談を受けることが増えました。これからは、グローバルへ挑戦をしたいと思っている人のサポートもしていきたいですね。

──最後にメッセージをいただいて、イベントを終了したいと思います。

上田さん:ソフトウェアエンジニアは世界的にも人手不足で、まさに「猫の手も借りたい」ような状態です。最初のハードルを超えてアメリカの企業に就職することができれば、ステップアップしていけるはずですし、年齢に関係なくチャンスはあると思います。

私自身、行動することで現在のキャリアをつくってきました。行動することが大切であり、方法さえわかれば無理な話ではないと思います。こういったイベントをきっかけに、グローバルにチャレンジする人が増えると嬉しいです。

竜さん:正直にお話しすると、「全員アメリカに絶対来るべきだ」とは思っていません。むしろ「アメリカがよくて日本は悪い」という話ばかりする人は、信じない方がいいと思います。日本の方が合う人は、国内で活躍した方が伸びるのではないでしょうか。

ただ、中には日本よりアメリカに来た人が活躍できる人もいるでしょうし、国内でくすぶっている人も少なくないでしょう。そういう人は、アメリカや海外に目を向けるのもおすすめです。興味があるならチャレンジして、楽しい人生を送っていただければと思います。