Findy Engineer Lab

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外資系企業の働き方を聞く。採用スタイルの違いや時差を超えたコミュニケーションの工夫とは?

ファインディでは8月1日に「AWSとAutifyで働く社員が語る、外資系企業で得た学びとキャリアとは ー外資系企業で働くエンジニアのキャリア論vol.6ー」と題したイベントを開催。 AWSからAutifyに転職した岩永さんと、AWSの針原さんを招いて、外資系企業での働き方についてお伺いしました。 イベントの中でお二人が強調されたのは「興味があるなら挑戦」「拙い英語でも、自分の意見を正しく伝えることが大切」だということ。加えて、日本企業との考え方や働き方の違いについてもお話ししてくださいました。 本稿では、お二人からイベント中に語られた内容をまとめています。

■パネリスト
Ryosuke Iwanagaさん/@riywo
Autify Sr. Technical Support Engineer
2022年より現職。前職はAmazon で、Vancouver (Canada) にあるAmazon S3 およびAmazon EKS の開発チームでSr. Systems Development Engineer、および転籍前は日本でAWS のSolutions Architect を経験。その前はDeNA で、データセンターの運用管理からソフトウェア開発まで経験。

Yoshitaka Haribaraさん/@_hariby
Amazon Web Services Japan Sr. ML/Quantum Startup Solutions Architect
東京大学 大学院 情報理工学系研究科 博士課程 修了後、2018年に新卒 Solutions Architect (SA) として AWS Japan に入社。 以来、機械学習や量子コンピューティングの専門性を活かしてスタートアップ担当 SA として活動。大阪府出身、趣味はドラム。

外資系企業へ入社するきっかけになったのは、リクルーターとの出会い

──AWS、Autifyで働くことになったきっかけを教えていただけますか。

岩永さん:前職であるAWSは、ビジネスに特化したSNS経由でリクルーターから声をかけていただいたことが、入社のきっかけですね。海外移住をしたいと思っていましたし、ビッグテックで社内転籍をすれば海外移住できるのではないかという考えもありました。

日本で3年ほど働いたあとに、社内転籍するために面接を受け、カナダのバンクーバーにあるAmazon Simple Storage Service (Amazon S3)のサービスチームに異動。家族含めてバンクーバーに移住をしたのが3年半ほど前で、永住権も取得しています。バンクーバーで別のチームに転籍したこともありますよ。

その後、2021年の末あたりに複数のスタートアップからお声がけいただき、2022年の頭にAutifyへ転職。Autifyはスタートアップなのにも関わらず、AWSと変わらないほどの報酬を提示してくださいましたし、新しい環境にチャレンジするために転職を決意しました。

──社内転籍をする際、必要なスキルも変わってくると思います。どのようにカバーされたのですか?

岩永さん:おっしゃる通り、職種によってスキルは異なりますね。社内転籍を成功させるには、何かしらのトリックが必要です。

私の場合は、ソリューションアーキテクト(以下:SA)からデベロッパーへの転籍でした。コーディングインタビューは得意ではありませんでしたが、SAの仕事を通して“システムの勘所”がわかっていたことが評価されたのだと思います。デベロッパーはスケーラブルなアーキテクチャ設計が苦手な人もいますが、私はそこをカバーできている。コーディングインタビューは、できるようになるまでトレーニングすればいいですしね。つまりは、マイナスをプラスで帳消しにする形だったのだと思います。

──なるほど。針原さんがAWSに入社されたきっかけはなんだったのですか?

針原さん:私がAWSに入社したのは2018年です。大学院の博士課程で量子コンピューティング関連の研究をした後、スタートアップを起業するか就職するかで迷っていました。たまたま参加した求人イベントでリクルーターと出会ったことをきっかけにAWSの面接を受け、入社することにしました。AWSはコンピューティングリソースそのものをビジネスにしていて面白いなと思いましたし、カルチャーに共感しました。AWSで働いていた知人や、ユーザーとしてAWSを利用する中で出会ったSAの方が、キャリア含めた相談に親身に乗ってくれたことも決め手です。

入社当時はSAについて深く理解できていませんでしたが、入社前に担当だったスタートアップSAの方がその後メンターとなり、業務をキャッチアップしていきました。

ポジションに差はないけれど、採用スタイルの違いには注意。 外資系企業と日本企業の相違点とは

──外資系企業ならではのポジションには、どのようなものがあるのでしょうか?

針原さん:ポジションについて、外資系企業ならではなのかは分かりませんが、中には日本企業と似たポジションもあると思います。会社によって呼び方が違うこともあるので、似ているものから探すと理解しやすいと思います。

現在私がしているSAについても、日本でも同様のポジションを設けている会社が増えたような印象です。呼び方が違うだけで、実は似たような仕事をしているというケースもあるのかもしれませんね。

──増えているとはいえ、日本ではSAを設けている企業はまだ少ないようにも思います。SAの面白さや醍醐味について、お話いただけますか。

針原さん:SAの仕事は担当するクライアント企業によって、内容や求められることが異なります。私はスタートアップの担当で、多くの企業と関わることができているため、非常に楽しいです。

スタートアップは勢いがありますし、優秀な人が集まっていると感じます。さまざまな分野で新しいプロダクトを生み出している方と仕事ができるのは、SAだからこそできる貴重な経験だと思います。

──外資系企業と日本企業のポジションの違いについて、岩永さんの意見もお伺いしたいです。

岩永さん:ポジションの話からは少しそれてしまうのですが、日本企業はジェネラリストが優先的に採用されているような印象です。採用してからポジションが決められるスタイルが多いですよね。

私が把握しているのはAmazonとAutifyだけですが、両社ともヘッドカウントがあり、役割を軸に採用しています。欲しい人材と人数があらかじめ決まっていて、条件を満たしている人を採用するスタイルですね。

外資系企業ではあらかじめ募集人数が明確に決まっているため、すぐに枠が埋まってしまうこともあります。会社側からすると、欲しい人材が現れたとしても、ヘッドカウントが埋まっていると採用できないといった状況も珍しくありません。

──ヘッドカウントが設定されている場合、応募者側からするとどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

岩永さん:応募する側からすると、どのようなスキルがあれば採用されるかわかっているため、対策がしやすい点はメリットだと思います。一方で、入社したとしても「実際の仕事が想像と違っていた」となった場合、辛くなる可能性があるのはデメリットかもしれません。苦しい仕事だったとしても、ヘッドカウントに空きがなければ、容易には別のポジションに移ることはできませんから。

面接を受ける前に、希望するポジションがどのようなものなのか、しっかり理解しておいた方がいいとは思います。

時差を考えたコミュニケーションがポイント。外資系企業で世界のエンジニアと働くコツ

──外資企業の開発や働き方について、日本企業との違いを感じるのはどんなところですか?

岩永さん:一番大きく違うと感じるのは、プロダクト開発における考え方ですね。AWSでは最初からシステムを世界規模でスケールさせることを前提に考えます。現行のシステムで100~1000倍になったとしても耐えられるのか、それが無理なのであればどこがボトルネックになるのか。そういった視点を常に持っていて、課題があればデザイン段階で見抜いて対応しています。日本では国内のマーケット規模に閉じたデザインをしてしまうことが多いのではないでしょうか。

働き方の面でいうと、収入を上げるためには昇進が必須であるため「どのようにしたらラダーを上げられるのか?」といった思考を持っている人が多いですね。実現するためにはどのようなプロジェクトを担当するべきなのか、マネージャーと相談することもあります。

──針原さんはいかがですか?

針原さん:ほかの外資系企業では異なる可能性もありますが、Amazonではプライベートや家族の予定を優先する文化があります。用事がある際は、カレンダーをブロックして「プライベートの予定が入っています」と伝えておけば文句を言われることはありません。そういった働きやすい雰囲気が整っているのは魅力だと思います。

Amazon独特の働き方だと感じるのは、ドキュメント文化が浸透していることです。グローバル企業では、コンテキストの違いや時差などを考慮したコミュニケーションの難しさを考慮する必要があります。Amazonではナラティブとして書かれたドキュメントを活用し、効率的にコミュニケーションできる仕組みが整っています。

──ドキュメントは英語で書くのでしょうか?

針原さん:誰に読んでもらいたいかで変わりますね。日本のチームメンバーに共有するだけであれば日本語ですし、AWSのグローバルチームに広めていきたい場合は英語で書きます。

──タイムゾーンの違うチームとコミュニケーションする方法も教えていただきたいです。

岩永さん:コミュニケーションは基本的に非同期です。どうしても直接話したい場合は、時差を考えてお互いが活動できる時間帯にミーティングを差し込むこともありますね。

針原さん:タイムゾーンを意識して働くのは大切ですよね。私は重要なメッセージを送る場合、相手の稼働時間を意識して確実に見てもらえる時間に送るようにしています。

──いろいろ工夫されているのですね。働く上で苦労している点や失敗したエピソードなどはありますか?

針原さん:AmazonやAWSには失敗を受け入れて、そこから学び再度チャレンジできる文化があります。むしろ、大きな失敗をしていない=挑戦をしていない証拠だと。ビジネスを成長させるためには、計算された大きなリスクを取ってチャレンジしないとダメだという考えですね。

その上で失敗と言いますか、大変だと思ったエピソードは、年間のスケジュールの中で相手が休暇を取るタイミングをある程度事前に把握しておく必要があることです。AWSでは「AWS re:Invent 」というカンファレンスを年末に開催していて、終了すると長期的な休みを取る人がいます。そのため「イベントが終わってから相談しよう」と思っていたら、相手が休みに入ってしまい、計画が遅れるといったケースもありました。

また、会社の規模が大きくなるほどチームの数も増えます。その分、欲しい情報を持っている人が誰なのか探すのに苦労することもありますね。そういった部分でのコミュニケーションは、慣れるまでは大変かもしれません。

拙い英語でもOK! コミュニケーションを取るなら、自分の意見を正しく伝えることが大切

──岩永さんは、もともと英語が話せたのですか?

岩永さん:いいえ。私は社会人になるまで海外渡航の経験が少ない方でしたし、新卒入社した会社でも、仕事で英語を使用することは全くありせんでした。私の場合、働く中で少しずつ海外に興味が出てきたタイプですね。

海外移住をしたいと思うようになり、英語の勉強を開始した際、試しに受けた一番最初のTOEICは595点でした。TOEICを受けた後、1年だけサンフランシスコで働く機会があったのですが、思ったほど英語力は伸びませんでしたね。

──現在は基本的に英語で活動されていると思いますが、どのようにして英語力を伸ばしていかれたのですか?

岩永さん:英語力を伸ばすのに役立ったのは、“(逐次)通訳”ですね。

AWSに転職し、クライアントや同僚との会話は日本語でしたが、開発チームと話す際は英語でした。サービスチームが来日した際、国内のクライアントとの打ち合わせには、通訳が必要だったのです。その役割を買って出ることで、私は英語のスキルを伸ばすことができたと思っています。製品の詳細やクライアントの課題は既に頭に入っているため、純粋に英語と日本語の双方向の変換にのみ集中することができて、たった数日でも英語を相当強化することができました。

──通訳は頭を使いますし、勉強になりそうですね。そのほか、英語環境に慣れるコツがあれば、お話しいただけますか。

岩永さん:英語ネイティブの人とスムーズに会話するのは、いまだに難易度が高いと感じますね。何を言うか考えている間に話題が変わっていきますし、自分の意見を伝えないでいると黙っていると思われてしまいます。

ただ、みんな意外と人の話を聞いていないので(笑)。言いたいことがあるのであれば、拙い英語だったとしても、どんどん発言した方がいいと思います。私の場合、言いたいことは言いましたし、聞き出したい情報があれば何度でも聞くようにしていました。

──とにかく話すことが大切なんですね。針原さんは英語のコミュニケーションで困ったことはありますか?

針原さん:困ったというか、これまでは何とかなっているという感じです。グローバル企業は英語ネイティブじゃない人にも優しいですし、文法的に変な英語でも口語ではあまり気にしていないと思います。

それよりも、岩永さんがおっしゃる通り、自分の意見を伝えることが大切なのではないでしょうか。自分の意見が正しく伝わることの方が、キレイな英語を話すよりも優先度は高いです。

また、AmazonやAWSでは文章の読み書きができることが非常に役立ちます。前述のナラティブ文化に加え、メールやチャットでの非同期のコミュニケーションもあります。読み書きを鍛えたい方は、岩永さんが過去に書かれていた「質の高い技術文書を書く方法」などをチェックするのもオススメです。

──「TOEICのスコア=英語力ではないと思いますが、どのくらいのスコアが必要ですか?」という質問がきていますが、いかがですか?

針原さん:私の場合は昔に受けたきりですので、あまり参考にならないかもしれませんが、最高点は890点でしたね。

ただ、個人的にはTOEICのスコアはあまり気にしなくていいのではないかと考えています。

ヘッドカウントが埋まる可能性大。迷っているなら、今すぐに応募してみてほしい

──今後のキャリア展望について、お話いただけますか。

針原さん:長期的な目線でいうと、スタートアップに入社したり、起業したりすることに興味はありますね。社内プロジェクトとして、量子コンピューティングに触れることもあるため、そういった専門分野に集中できるポジションも楽しそうだなと。

岩永さん:スタートアップの業界で、多くのプロダクトに関わっていきたいですね。Autifyでは副業が許可されているため、さまざまな会社と繋がって仕事していくのも楽しそうだなと考えています。

──最後に、参加者へのメッセージをお願いします。

針原さん:「外資系企業はこうだ」と先入観にとらわれすぎるのも良くなくて、入ってみないとわからないことはあります。「活躍できるかわからない」と不安に思う気持ちがあったとしても、ひとまず面接を受けてみて、入社してから考える形でもいいのではないでしょうか。「敷居が高いな」と思い、応募を諦めている人がいたとしたら、ぜひ一度挑戦してみて欲しいですね。

岩永さん:興味があるのであれば、応募した方がいいと思います。不安があったとしても、ひとまず面接を受けて受かったらラッキーですし、落ちたら再度応募すればいいのではないでしょうか。一度落ちたら二度と応募できないなんてことはないですし、何度でも挑戦していいと思います。いろんなポジションをたくさん受けていく中で、面接の受け答えがどんどん上達していくと思います。

外資系企業はヘッドカウントの空きがあっても、すぐに埋まってしまう可能性があります。もし気になる会社やポジションがあるのであれば、今すぐにでも応募するのがおすすめです。