Findy Engineer Lab

エンジニアの"ちょい先"を考えるメディア

仕事と育児の両立で挫折した私が、週4日勤務でエンジニアを続けるためにしたこと

平(@mana_cat)といいます。私は金融スタートアップでAWSやAzureを扱ったクラウドインフラエンジニアとして業務に携わっています。現在は週4日をエンジニアとして勤務し、週1日を副業でフリーランスをしています。昨年8月に第3子を出産した関係で育児休業を取得中で、今年4月に職場復帰するタイミングで入社3年目になります。

プライベートでは、夫、8歳長男、5歳次男、0歳長女と都内で5人暮らしです。

なぜ、複業(複数の仕事を持つ)という働き方をしているのか、そこに至る道のりを今回の寄稿で紹介します。これまでを振り返ると、キラキラとした輝かしい生き方ではありません。仕事と育児の両立に幾度となく挫折し、遠回りしながら不器用に進んでいる生き方だと感じています。

働く場所に縛られないクラウドエンジニアへの転身と、看護のための退職

私は地元熊本の工学系大学を2006年に卒業後、都内のSIerにエンジニアとして第二新卒入社し、5年ほど客先常駐のインフラエンジニアを経験しました。第1子である長男の出産後は、データセンター作業や客先常駐など場所に縛られる働き方が難しいと感じ、2013年にクラウドエンジニアに転身するため転職しました。

しかし、クラウドエンジニアとして働き始めて7ヶ月後、当時2歳の長男が肺炎を繰り返し4回入院。退院後も通院を余儀なくされ、両親は遠方、義両親は既に他界しているため頼れる親族が居ない状態で、快復するまでは仕事と育児の両立は難しいと判断。夫婦で話し合った結果、私が看護のため退職し、会社員のレールからいったん下りることを決意しました。

これから仕事が楽しくなるタイミングでの退職だったので、その時の未練もあり、エンジニアとしての人生を諦めきれませんでした。しかし、まずは子どもが健康に育っていく事が最優先。体力が付いて元気になる頃には、自分自身も再就職できるのではと希望を持ち続けました。

再就職までの遠い道のり

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重視したのは「家族優先で働き方を変えても、自分の目標は見失わないこと」

長男が快復したらまたエンジニアとして頑張っていきたいという思いが強く、看護の傍らフリーランスで技術書の執筆をしていました。その間に次男を妊娠・出産して4人家族になり、2人の育児をしながらの再就職を目指しました。

一度会社員としてのレールから外れた自分が再就職できるのか、自信よりも不安の方が大きかったのですが、自分は何のために仕事をするのかと振り返ると、もちろん自分のためではあるけれど家族の幸せのためでもあるからこそ。今は焦らずにいこうと決意し、仕事をする目的を見失わないようにしました。

再就職を阻む“保活地獄”

再就職するために、次男の妊娠中から「保活」(保育園に入所するための活動)を始めていました。週5日の時短勤務で再スタートするまでに、保活という難易度の高い試練を乗り越える必要があります。

妊娠中でも申し込みができる認可外保育園を探したところ、申し込みが少ない園でも既に100人待ち。都内の認可保育園は激戦区なので、フルタイム夫婦共働きでも簡単には入園できません。我が家の場合は私がフルタイムで仕事ができない分、保育園入所指数*1がどうしても低くなってしまいます。そのため、当初申し込んだ認可保育園は全て落ちてしまいました。

幸運にも、キャンセル待ちで入れる認可外保育園が隣接区で見つかったことで、2016年にエンジニアとして再就職ができました。なお次男はその翌年度、住んでいる自治体の認可保育園に転園できました。

会社員を退職し、再就職するまで2年半かかりましたが、あらためてスタート地点に立てました。その頃には病弱だった長男も徐々に体力が付き、元気な姿を見せるようになりました。

IoTとコミュニティ運営の出会いが選択肢を広げてくれた

クラウドエンジニアとしてのスキル以外に、自信を得られた経験が2つあります。

コミュニティ活動を通した気付きと、自ら切り拓く道

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1点目はコミュニティ運営です。

2010年ごろからエンジニア勉強会への参加を始めました。当時は勉強会で同性のエンジニアに会うことがほとんどなく、5年後・10年後の働き方など、ロールモデルの不在で正直不安が強かったです。

「だったら、女性も参加しやすい勉強会を自分たちで開催してみよう」と、2011年から性別関係なくエンジニアが参加しやすい技術勉強会を、有志で不定期開催。「Linux女子部」の主宰や、「TechGIRL」の運営経験を通して、技術的なスキルアップのためのモチベーションを維持できました。それと同時に、試行錯誤ではあったものの、コミュニティの運営スキルを身に付けることができました。

また、勉強会やITイベントで出会った同性のエンジニアの働き方は多種多様で、今後の働き方の参考にもなりました。日系企業から外資系企業へ転職したエンジニア、エンジニアから起業して経営者になった人、個人事業主として活動している方とも交流することができました。それがきっかけで、自分の生き方は、自ら切り拓いていくしかないと気付きました。それまで胸中にあった結婚・出産後の漠然とした不安が吹っ切れ、胸を張って生きていこうと誓いました。

育児がきっかけでIoTに興味を持ち、連載・書籍化へ

2点目はIoTの経験です。

次男の保育園がなかなか見つからずに悩んでいた頃、育児がきっかけでIoTを始めました。子どもが遊んでいたオモチャのプラレールをフリスクサイズの小さなマイコンボード「Raspberry Pi Zero」で制御・IoT化したことを書いたブログ記事が反響を呼び、翔泳社が運営するメディア「CodeZine」で連載する機会をいただきました。後に連載記事は書籍化され、自信にもつながりました。

www.mana-cat.com

Raspberry Pi Zeroではじめよう! おうちで楽しむIoTレシピ連載一覧:CodeZine(コードジン)

また、それまではLinux、AWS、OpenStackといったインフラエンジニアとしての業務で培ったものが自身のスキルの範囲内だったのですが、執筆がきっかけでMicrosoft Azureを個人契約し、Azureの良さを知るきっかけにもなりました。結果的に育児を契機としてスキルの幅がぐっと広がり、自分にとってプラスとなりました。

体力の限界でアレルギーが悪化。2度目の挫折を経験

再就職した当時、子どもたちはそれぞれ別の保育園に通っていました。2人分の保育園の送迎だけでも一苦労。時短勤務をしても時間との勝負で、職場から駅まで走って帰る生活をしていました。

ついには、分刻みのタイトなスケジュールをこなしながら仕事も育児も両立していた自分の人生そのものが危機的状況となる出来事が起きました。ストレスで持病のカモガヤ花粉症が悪化し、他のアレルゲンにも強く反応してアナフィラキシーショックを起こし救急搬送されてしまったのです。

無事に一命を取り留めましたが、仕事と育児の両立を目指すあまり、常に睡眠不足でストレスの解消ができず、アレルギーが悪化している状態でした。この出来事があって家族や職場に心配を掛けてしまいました。

もう既に、この時点で週5日勤務の会社員という働き方は、自分の体力では難しいと判断し、退職をしました。

スタートアップで週4日勤務という選択肢。諦めずに再出発を選んだ道

私たちが住んでいる自治体では、退職後2ヶ月以内に次の仕事を決めないと、子どもたちの通う認可保育園を退所するルールがあります。そのため、早々に次の仕事を見つける必要がありました。この時点で今後の働き方をどうするか、これからどう生きていこうかと、悩みに悩みました。

ただ、ここで諦めると一生後悔するだろうと思い、転職に再チャレンジ。これまでとは違って、仕事に自分を合わせて無理をして働くのではなく、無理をし過ぎない働き方に変えていかないと、体力が持たないと考えました。

転職を通してスキルアップすることももちろん大切ですが、育児をしながら体力的に無理せず柔軟に働ける職場を探しました。結果としては設立されて間もない金融スタートアップの選考を受け、内定をもらいました。金融系の業界に入るのは未経験でしたが、設立されたばかりでこれから本格的にプロジェクトが始まるタイミングだったこと、何よりも「金融の新しいあたりまえを創る」という会社理念にひかれ、新しいものが好きな私は「これは面白そうだ!」と入社を決意しました。

本業の勤務日数は週4日、そして副業を1日でスタートすることに。このような働き方にする理由は、私が住んでいる自治体の認可保育園では勤務時間・勤務日数が減ると指数が減り、場合によっては認可保育園を退所するルールがあるためです。指数を維持するために週1日の副業をして、本業と副業の合計で週5日勤務になるよう調整しています。

週1日の副業では、自分のペースでできる執筆やカフェの店内撮影の仕事をして、本業では得られない経験をしています。そのため、できる限りストレスが少なくなるように仕事を選び、楽しく続けていくようにしています。

週2日のリモート勤務を取り入れ、花粉症も改善

現在の職場に入社してから、まず組織作りの支援を行いました。これまでのクラウドエンジニアとしてのスキルをベースに勉強会の運営、エンジニアメンバーの活動について採用ブログで広報し採用活動を支援。これまでの経験を全て活かせました。リモートワークを推進し、メンバーがリモート勤務できるようなカルチャー作りにも力を入れました。

特に勉強会の運営は、これまではボランティアとしてのコミュニティ活動経験しかなかった状態で、組織として運営する方法は手探りの状態でしたが、1年掛けてノウハウが蓄積され、運営がうまく回るようになりました。

私はスペシャリストではなく、組織横断型のゼネラリストだという自覚があります。設立後間もないスタートアップで、自分のできることを裏方役として注いでいけたことが、自分自身にとっての大きな成長につながりました。仕事と育児の両立ができずに挫折を繰り返していた7年間が、ここにきて報われたのだと実感します。

そして、本業週4日勤務のうち週2日をリモート勤務にした結果、オフィスまでの移動時間が減るとともに、屋外で花粉を浴びる時間も減りました。結果的に働き方を変えた事で、重度の花粉症が劇的に改善されたのです。

子どもたちと向き合う時間が作れたことも大きい

働き方を変えた結果、子どもとの会話も増えました。特に、その日のリモート勤務が終わるとすぐに自宅から子どもの保育園まで直行できるので、職場から直行するよりも40分早くお迎えができます。その40分間で一緒に夕食を作ったり、スーパーに立ち寄ってお惣菜を買ったりすることもでき、心に余裕が持てるようになりました。何よりも、子どもたちが成長し、できる事が増えていく姿を間近で感じられることがうれしいです。

スタートアップで産休育休を経験。復帰を間近に控えた今伝えたいこと

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20代の頃は、周囲に女性エンジニアとしてのロールモデルが不在で、不安でした。しかし、コミュニティ活動を通してその考えを改め、次第に「自分の道は自分で切り拓いていこう」と考え方が変わっていきました。今年4月からは0歳長女が保育園に入所し、仕事に復帰する予定です。今後の不安よりも、復帰できる喜びと希望の方が大きいです。

週5日勤務だけが正解ではない、多様な働き方がある

週5日フルタイムの仕事ではなく、敢えて週4日の本業と週1日の副業の道を選び、“会社員の一般的なレール”から外れたことで、知らない誰かのキャリアと自分を比較して落ち込むことはなくなりました。多様な人生がある中で「自分にとってそのタイミングでベストな働き方を選んでいこう」。それが私の選択です。自身が生きやすい働き方を選ぶことも、選択肢の一つだと思っています。

今後も育児に注ぐ余力を残しつつ、無理をし過ぎずにエンジニアとして働いていこうと思います。子どもたちが成長して手が離れてきたら、またその時に働き方を見つめ直していけたらと考えています。

育児はプロジェクト。育児の課題は夫婦で共有して一緒に解決する

育児・家事は自分だけで背負い込まずに家族で助け合うことを意識しています。そのため、育児については夫婦で解決できるような仕組み作りを考えました。家庭内でBacklogのフリープランを契約。保活、子どもの習い事、予防接種、家族行事の予定などの課題を管理し、Wikiで情報管理をしています。子どもが3人いると全ての予定を完璧に覚えることは難しいので、この運用方法でうまく進めています。

家庭にプロジェクト管理ツールを導入してみた - Mana Blog Next

家事を頑張り過ぎずに余力を残す

今後も長く仕事を続けるには、全力疾走ではなく、余力を残しておくことを意識する必要があると感じています。特に家事では全力をつぎ込まないようにしています。

例えば、ネットスーパーの「Amazonフレッシュ」を使って買い物時間を削減し、子どものお手伝い制などの取り入れで家事を分担。最近はSHARPの自動調理鍋「ヘルシオ ホットクック 」を導入して調理時間を削減。毎朝食べるパンは、Panasonicのホームベーカリーで予約調理をし、起床後すぐに焼きたてのパンを食べられるようにしています。

大がかりな掃除は外注して業者に頼むことで、疲労が軽減しました。貴重な休日は子どもたちと遊ぶだけで体力を使うので、できる限り体力温存をしています。

たくさんの人に支えられてきたからこそ、今度は自分が恩返しをする番

正直、これまで人よりも遠回りしながら生きていることは、不器用で、ネガティブな印象があるのではと思っていました。しかし、これまでの経験に無駄なことなどなく、仕事でも活かされているのだと実感する日々です。

数年前、ある人に「子育てしながら仕事をするなんて絶対に無理だよ。諦めた方がいい」と言われたことがあります。それでも、後悔しない人生を選びたくて、最初は苦労すると分かっていてもこの道を選びました。仕事だけではなく、趣味や育児から得られた経験も、今の自分を支えていると感じています。

子の看護で仕事を休み、迷惑を掛けることもありました。それを理解してくださるチームメンバーや上司の存在のおかげで今も仕事を続けられていると思います。

これまでにたくさんの人からもらった恩を返したくて、職場で困っているメンバーがいたら積極的に相談を聞いたり、改善できるように社内で連携を取ったりすることもあります。たとえ転職して職場が変わっても、今度は自分が周囲に恩返しをする番だと思っています。

さいごに

仕事と育児の両立は想像以上に大変で、困難なことが多々あります。夫と協力しながら育児の困難を乗り越えていけたことは、家族としてのチームワークがあったからこそ。また、職場の理解やリモートワークなど柔軟な働き方ができたからこそだと思います。自分だけの力では実現できなかったことなので、周囲にいつも感謝をしています。

そして、身体の弱かった長男は今年で9歳になります。体調を崩す回数も減り、今では休日もお友達と遊ぶようになり、まるで別人のように元気いっぱいです。

子どもの成長とともに、困難は時間が解決してくれることもあるのだと思いました。もしも、また同じように窮地に立たされる事があったとしても、焦らず諦めずに進んでいきます。

もし過去の自分と同じように仕事と育児の両立で悩んでいる人がいたら、一人で背負い込み過ぎないでほしいと伝えたいです。

編集:はてな編集部

*1:保育の必要性について各自治体が決定する指数。保護者の就労状況や世帯の状況などによって決まる。