Findy Engineer Lab

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RubyのOSS活動で感じた世界の熱量をエンジニア組織づくりへ。秒速さんの執行役員としての挑戦

RubyConf Thailand にて英語での登壇シーン

現場の効率化から経営改善までを一元管理できる、クラウド型の建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」(アンドパッド)。2016年3月にサービスが開始され、現在は10万社以上が利用するシェアNo.1のサービスに成長しています。

今回は、株式会社アンドパッドで執行役員を務めるエンジニア、秒速@284kmこと古橋一真さんにインタビュー、急成長を遂げるアンドパッドにおけるエンジニア組織の課題や取り組みなどについて、お話をうかがいました。

株式会社アンドパッド 古橋一真(秒速@284km

フィードフォース、Speeeを経て2020年12月アンドパッド入社。 秒速@284kmとしてRuby界隈で活動中。

幅広い分野での開発経験、そしてRubyでのOSS活動

――これまでに取り組んできた開発分野などを含め、自己紹介をお願いします。

最近は、主にWebアプリケーション開発の領域をやっていて、開発もしますし、一部マネジメントもしています。達成したい目的があって、その手段としてWebアプリケーションを書いたり、必要ならばマネジメントもするという形ですね。

エンジニアリングの歩みを振り返ってみると、始まりは高校生の頃。当時ゲームの延長線上のような感覚で、CやBASIC、VBなどを書いていたのですが、たまたま知人経由で仕事がもらえて、なんとなく仕事が始まったというのが最初でした。

その後は、どういう分野があるのか一通り見てみたいという気持ちが強く、自分にとってメリットがあるなしに関わらず、いろいろと見てきました。COBOLを書く現場に入っていたこともあるし、CやJava、Perlの仕事もよくやっていました。あとは世の中の流れ的に、Webアプリケーションを書く仕事が増え始めて、その中でインフラからフロント、サーバーサイドまで一通りやって、その延長で今があります。

もう1つ軸の違うところで、力を入れてきたのはRubyでのOSS活動ですね。RubyKaigiでも発表したCSVパーサーの高速化などが、自分の最も代表的な成果になると思います。その他には、Red Data Toolsというプロジェクトで、ChartyというRuby向けのデータビジュアライゼーションツールを作ったとか、そのあたりが主な成果になります。

Chartyについての登壇スライド

事業を支えるベストプラクティスを提供したい

――執行役員に就任されて、現在どのようなエンジニア組織づくりを目指されているのでしょうか。

まず、自分は転職する時に、「創意工夫の余地がある仕事をしたい」「ベストプラクティスを提供したい」と伝えてアンドパッドに入社しています。

Webアプリケーションを作り、それをサービスとして提供し、価値を生み出して対価を得る、という一連の流れがあるわけですが、例えばどのような技術やツールを使えば、より速く精度高くユーザーに提供できるのか、というのは時代ごとに異なってきます。事業に寄り添った形を前提として、それを支えるためのベストプラクティスを用意したい、ということですね。

そうした思いは、執行役員になる前から同じです。執行役員になって裁量が大きくなったところはありますが、もともとアンドパッドは風通しが良い風土なので、特に大きく変わったことはありません。自分としては、まず目的があって、その目的を達成するために必要なことを揃えていく、という道を辿るのみです。

時には、エンジニア以外の職種の方とも適切に協力して、課題があればそれを解決する。ビジョンを共有して、構造を作り、実行してやり切るまでを、一気通貫で先頭に立って進められる。それをできることが、今のアンドパッドにとって大事なことであると思っています。

――「創意工夫の余地がある」というのは、どういった状況の組織だと捉えられていますか?

これは自分でも、幅広い言葉だなと思いながら使っているのですが、例えば、どんな事業のフェーズであったとしても、特定の個人が仮説を持てるとした場合、その仮説を仲間に伝えて、実際に行動に移せたり、その仮説についての議論が起きたりする場だと良いですよね。そういう場というのは、環境全体が前向きで、目的に対して純粋な組織なんだと思います。

――OSS活動に注力されてきた背景を踏まえると、業界的にも「ベストプラクティスを作りたい」という思いもあるのでしょうか。

そうですね。もちろん業界的に作りたいという大きな目標もありますが、いったんそこは封印しています(笑)。

OSS活動で言うと、例えばChartyというツールは当時、世になかったものなので、ニッチな領域かもしれないけれど、僕はその時、自分が作ったもので世界の先端にいたんですよ。なので、あまり得意ではない英語でどうにか発表の準備をして、RubyConf TaiwanやRubyConf Thailandへ行って発表してきました。

すると、そこには熱量の高い人たちが世界中から集まっているんですね。そういう人たちと繋がって、自分が作ったものの価値を広く伝えることができる。そんな体験をしたので、いずれアンドパッドの事業としても、そこを目指していきたいという思いはあります。

ただ、まだその前にやることがたくさんあって。例を挙げるなら、何かバージョンアップをしたいとして、バージョンを単に上げるとどうやら壊れるらしい、という状況があったとします。その時、IssueがOSSに上がって、解決されるのを待ちたくないですよね。そこで、OSSで「ここをこう直すと解決しますよ」という視点を自ら与えるとかですね。

つまり僕が伝えたいのは、実はそんなに自ら制約を設けてしまう必要はないんだよ、ということ。我々はエンジニアで、技術職であり専門家であるので、技術力から突破できる余地は結構あります。

僕はチームに対して、目標を意識して伝えるようにしています。それは技術をもって何かを突破した時に、目的に対してどれだけ近づけたかを共有したいからで、メンバーにもちゃんと目的に納得感を持ってもらえるように伝えるなど、そういった活動を意識しています。

海外のRuby関連のカンファレンスでハンバーガーを食べながら語る

急成長する中で直面する、エンジニア組織としての課題

――急成長しているアンドパッドさんの中で、エンジニア組織としては今どのような課題がありますか?

技術課題が先行することが多いのですが、今ありがたいことに多くのユーザーさんに使っていただいていることで、パフォーマンスに関する課題が出てきていたりしますね。他にも、利用者増える中でなかなか踏まれることはなかったであろうエッジなケースのバグが見つかるとか、そういうことが出てきていたりもします。

そうした既存のサービスで起きた問題への対処が必要であると同時に、これから増やしていく機能やサービスもあって、新規開発のリソースも確保しなければなりません。その両方をやっていくとなると、単純にリソースが足りない。なので、やはりもっともっと仲間が欲しいというのが、真っ先に出てくる課題になりますね。

それから、既存のサービスで何か不具合が起きて、怪しいなと思う部分の調査に入った時に、その機能やサービスを知っている人がどれだけいるか、というのが問題になることがあります。

そういう部分は、わりと初期に作られていることが多く、つまりユーザーによく使われる大事なところであることが多いです。そして、過去の経緯などもありなかなか複雑なものだったりするんですよね。当時のことを知らない人が、それをどう読み解いて対処していくか。そういったところは、難しさとして出てきています。こういった課題の対処法としては、例えば設計思考やデザイン思考から始めるという文化を改めて浸透させる試みであるDesign Docを導入なども始めています。

あとは、人が増えることによるマネジメントの課題ですね。人というのはそれぞれ違いますから、僕がマネジメントする中で気にしているのは、その人が生き生きと仕事ができているかどうかです。メンバーのタスクが滞りなく消化されているとして、その人はそれを望んで前向きにやれているのか、など。

やはり人が増えてくると、それを捉えられなくなるタイミングが少しずつ出てきたりします。このあたりについては、Findy Teamsを役立てていきたいと思っているところですね。

Findy Teams事例インタビュー

Findy Teamsの利用イメージ

エンジニアリングにとどまらず、「製販一体」を意識

――組織が拡大していく中で、より良い技術や開発を維持するために、どんなことに意識して取り組まれていますか?

最近は、「製販一体」という言葉を意識しています。自分は、いちエンジニアなので、良い技術を扱って、良くエンジニアリングして、そして良いものができれば、それはとても素晴らしいことだと思うわけですが、それがどうやったら成り立つのかという部分に、客観的な視点は必要だと考えています。

全員がそこを見る必要はないのですが、自分はその役割をやってもいいと思っているので、成果と結びつけるところまでをセットで引き受けています。

エンジニアチームやプロダクトチームであったり、営業の方々やカスタマーサポートを担うCXの方々であったりと、さまざまな立場の人がいる中で、誰が何をどんな狙いでやっているのか。それを円滑に伝えることによって、連携がスムーズに行われ、効率化が図られたり、後戻りのない実行ができたりします。

なので、滞っているところがあれば、本質的な課題を見つけ出して、それが解消するような動きをしますし、解消するためにもう少し多くの人の協力が必要であれば、それをやる意味やゴールを共有して、納得感が持てるだけの説明をするようにしています。

アンドパッドでの秒速さん

組織全体とエンジニア個人、2つの”速さ”を伸ばしていく

――それでは最後に、アンドパッドのような急拡大するエンジニア組織で働く面白さについて教えてください。

ここまでお話してきた中で、自分の核は”速さ”を求めているところにあると思っています。何に対しての速さかというと、目的ですね。アンドパッドが推進する事業の目的に対して、自分が関わることで、より速くできる余地があると考えています。

その中でも、組織全体としての速さと、「この分野をこの人が最速で走り切ることができる」というようなエンジニア個々としての速さ、この2つの速さがあると思っています。

アンドパッドのような今後成長が続いていくであろう場において、その2つを伸ばしていくのは、すごく大事なことだと考えています。それをやり続けることによって、次のステージや新しい未来に繋がっていく。そこが見ていて楽しいし、関わるともっと楽しいところだと思います。

やりたいと思えば何でもチャレンジできる風土なこともあり、自分の視点から「ここが楽しいよ」とおすすめできるところは、やはり”成長に向けての速さ”ですね。”成長に向かう速さ”を自分たちで上げていけるし、作っていけるところがたくさんあります。そういうところに面白さがあると思います。

――秒速さん、ありがとうございました!